基本情報
書名:中にいる、おまえの中にいる。
著者:歌野晶午
出版社:双葉社
発売日:2025年7月25日
ISBN:978-4-575-24829-6
ページ数:約239〜248ページ
判型/サイズ:四六判(20cm前後)
価格:1,870円(税込)
ジャンル:ホラー・ミステリー
あらすじ
十八歳の青年・栢原蒼空は、自分の中に“間宵己代子”という別の人格が入り込んでしまった。己代子は、死後も他人に寄生して生き続ける異常な存在。突然始まった奇妙な同居生活は、やがて蒼空の生活を侵食し、犯罪にも手を染めさせていく。ホラー的な恐怖よりも「なぜこんなことが起こったのか」「どうすれば解決できるのか」という謎解き要素が強く、特殊設定ミステリとして一気読みしてしまう物語だ。

読書のきっかけと心構え
本作はホラーとミステリの融合と聞いていたので、読み始める前はかなり身構えていました。
というのも、自分はホラー耐性が低く、いわゆる怪異や幽霊が出てくる作品だと、怖さで読むスピードが落ちてしまうタイプだからです。
ただ、著者が歌野晶午さんであること、そして以前『葉桜の季節に君を想うということ』を読んで“最後の一撃”の鮮やかさに痺れた経験があったので、今回もその構造的な驚きに期待してページを開きました。
ホラーよりも「特殊設定ミステリ」としての面白さ
読んでみると、意外にも怖さより**「どうやって着地させるのか」への興味**のほうが勝ちました。
脳内に別人格がいる——この設定自体は十分に異常ですが、物語の描き方はオカルト寄りではなく、あくまで現実的で論理的です。
たとえば、己代子と蒼空とのやり取りや、日常生活に及ぼす影響、そしてその状態から抜け出すための方法を模索する過程は、まるで現実にありえる事件を追っているような感覚を与えます。
そのため、ホラーが苦手な人でも「恐怖心でページが止まる」ことはなく、むしろミステリとしてスルスル読めてしまうのです。

歌野晶午らしい“最後の一撃”
そして迎えるラスト。
歌野作品を読んだことがある方なら、「最後の一文で全てが変わる」あの感覚をご存じかもしれません。
本作でもその構造は健在で、これまでの物語の見方が一瞬でひっくり返ります。
『葉桜』では驚きと同時にロマンチックな余韻がありましたが、本作はもっと湿度の高い、背筋にぞわっとくる恐怖が後を引きます。
「そんなことってある!?!?」という驚きと、現実にあったら怖すぎるという想像が同時に押し寄せ、読了後もしばらく頭から離れませんでした

読後に残るもの
読後感は、驚き・恐怖・興奮が混ざった複雑なものです。
単なる種明かしで終わらず、「もしこういうことが現実に起きたら?」という余韻を読者に残します。
この“余韻のざらつき”が、ホラーとミステリの境界を漂う本作の魅力です。
個人的には、歌野作品を読む時の“身構え”が逆に面白さを増幅させたと感じます。
「怖いかも…」と心配しながらも、気づけば夢中になって読んでいた——この意外性も含めて、本作は忘れがたい読書体験になりました。
まとめ
- ホラー耐性が低くても読みやすい(論理的な展開と現実的な描写)
- 特殊設定ミステリとしての知的興奮が強い
- 最後の一文で全てがひっくり返る構成は歌野作品らしさ全開
- 驚きと余韻の両方を味わえる満足度の高い一冊
『葉桜の季節に君を想うということ』が好きな方、ミステリの驚きとホラーの背筋がぞくっとする感覚を同時に味わいたい方には、ぜひおすすめしたい作品です。
では、また。
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