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『世界でいちばん透きとおった物語2』感想レビュー|杉井光が描く未完のミステリの謎を追うビブリオ・ミステリ第二弾

目次

『世界でいちばん透きとおった物語2』基本情報

2023年に発売され、「電子書籍化絶対不可能」という触れ込みで話題を集めた『世界でいちばん透きとおった物語』。その驚きの仕掛けで50万部を突破した作品の待望の続編が、2025年1月29日に新潮文庫nexから刊行されました。

著者は杉井光さん。電撃小説大賞銀賞を受賞し、『火目の巫女』でデビュー。『神様のメモ帳』シリーズがアニメ化されるなど、ライトノベルから一般文芸まで幅広く活躍されている作家です。本作は前作で確立された「新人作家と編集者のバディもの」という枠組みを継承しつつ、純粋なミステリとしての完成度をさらに高めた作品となっています。

  • 著者: 杉井光
  • 出版社: 新潮社
  • レーベル: 新潮文庫nex
  • 発売日: 2025年1月29日
  • 価格: 737円(税込)
  • ページ数: 256ページ
  • ISBN: 9784101803005

『世界でいちばん透きとおった物語2』あらすじ

デビュー作『世界でいちばん透きとおった物語』で一躍注目を集めた新人作家・藤阪燈真。しかし二作目の執筆に行き詰まり、スランプに陥っていました。

そんなある日、燈真のもとに奇妙な依頼が舞い込みます。コンビ推理作家として活動していた「翠川双輔」のプロット担当・菊谷博和が急逝してしまったのです。菊谷が手掛けていたミステリ専門誌『アメジスト』連載中の『殺導線の少女』は未完のまま休載を余儀なくされ、多くのファンが続きを待ち望んでいました。

依頼内容は、菊谷が残したプロットの解決編を探り出し、物語の真相を明らかにしてほしいというものでした。担当編集者の深町霧子とともに調査を進める燈真は、菊谷の遺族や執筆パートナーの宇津木静夫に話を聞きながら、徐々に未完の小説に隠された故人の想いに迫っていきます。

果たして菊谷が遺した解決編は存在するのか。そして『殺導線の少女』に込められた真のメッセージとは何なのか。ミステリを愛する人々の情熱が交錯する、心温まるビブリオ・ミステリです。

前作との違いと本作の特徴

前作『世界でいちばん透きとおった物語』は、紙の本でしか実現できない物理的な仕掛けが大きな話題を呼びました。その驚きの体験は「電子書籍化絶対不可能」という謳い文句にふさわしいものでした。

一方で続編となる本作は、前作のような物理的トリックはありません。発売と同時に電子書籍版もリリースされており、その点では前作を読んだ読者からは「肩透かし」と感じられる可能性もあるでしょう。しかし、本作の魅力は別のところにあります。

今回の『世界でいちばん透きとおった物語2』は、純粋なミステリ小説としての完成度に重点が置かれています。作中作である『殺導線の少女』というミステリそのものが非常によく練られており、その謎解きを追体験する楽しさは格別です。さらに、なぜその物語が書かれたのか、作者は何を伝えようとしていたのかという「物語の背後にある物語」を探る構造が、読者を深く引き込みます。

登場人物の魅力とバディの関係性

本作の大きな魅力の一つが、主人公の藤阪燈真と担当編集者の深町霧子の関係性です。ホームズとワトソンのような名探偵コンビを思わせる二人の掛け合いは、読んでいて心地よいテンポ感があります。

燈真は作家としての感性と直感を持ちながらも、まだ経験の浅い新人です。対する霧子は博覧強記で、出版業界の裏側まで精通した敏腕編集者。霧子の鋭い洞察力と広い知識が、燈真の思考を導いていく様子は読んでいて爽快です。

二人の関係は単なる仕事上のパートナーシップを超えて、互いに信頼し合う間柄へと深まっていきます。前作から続く二人の会話は自然で親密さがあり、作家と編集者という枠を越えた仲の良さが微笑ましく描かれています。この関係性の変化を見るだけでも、続編を読む価値があると言えるでしょう。

ビブリオ・ミステリとしての面白さ

本作は「ビブリオ・ミステリ」というジャンルに分類されます。ビブリオ・ミステリとは、本や書物そのものが物語の鍵となるミステリのことです。

『世界でいちばん透きとおった物語2』では、未完の小説『殺導線の少女』という架空の作品が物語の中心に据えられています。この『殺導線の少女』自体が非常に魅力的なミステリとして描かれており、そのプロットや伏線の張り方、キャラクター設定まで丁寧に作り込まれています。

読者は燈真や霧子とともに『殺導線の少女』の謎を追いながら、同時にその物語を生み出した菊谷という人物の内面にも迫っていきます。なぜこの物語を書こうとしたのか。登場人物たちに何を託そうとしていたのか。そうした「創作の動機」を探る過程が、本作に深い感動をもたらしています。

ミステリ愛に満ちた作品であると同時に、創作という行為そのものへの愛情が込められた物語でもあります。本を書く人、編集する人、そして読む人。それぞれの立場からミステリという文化を支える人々の姿が、温かく描かれているのです。

物語に込められたテーマ

本作のテーマの一つは、「未完の物語」が持つ意味です。作者が最後まで書き上げることができなかった物語には、どのような価値があるのでしょうか。

菊谷が遺した『殺導線の少女』は、彼の死によって未完のまま終わってしまいました。しかし、その未完の物語には確かに菊谷の想いが込められています。燈真と霧子が調査を進める中で明らかになるのは、小説とは単なるエンターテインメントではなく、作者の人生そのものが刻まれた「記録」でもあるということです。

また、本作は「継承」というテーマも扱っています。故人が遺した想いを受け継ぎ、それを次の世代へと繋いでいくこと。燈真自身も、実の父である小説家・宮内彰吾の遺稿を出版したという過去を持ちます。だからこそ、菊谷の想いを汲み取ろうとする燈真の姿勢には、特別な重みがあるのです。

読みやすさと構成の巧みさ

本作は256ページという比較的コンパクトな分量ながら、読み応えは十分です。杉井光さんの文章は読みやすく、テンポの良い会話劇が物語を軽快に進めていきます。

前作を読んでいなくても楽しめるよう、必要な情報は自然に説明されていますが、やはり前作『世界でいちばん透きとおった物語』を読んでから本作に臨むことをおすすめします。燈真と霧子の関係性の変化や、燈真が作家としてどのように成長したのかといった部分は、前作を読んでいるとより深く味わえるでしょう。

物語の構成も巧みです。作中作『殺導線の少女』の内容と、現実世界で起きている出来事が絶妙に絡み合い、読者を飽きさせません。謎解きの過程も丁寧に描かれており、推理小説として王道を行く面白さがあります。

シリーズの今後への期待

本作は前作のような「驚きの仕掛け」こそありませんが、ミステリとしての完成度、キャラクターの魅力、そして物語のテーマ性という点で、前作を上回る評価をする読者も少なくありません。

燈真と霧子のコンビは、このまま探偵バディとしてシリーズ化していく可能性を感じさせます。二人の会話をずっと読んでいたいと思わせる魅力があり、続編があればぜひ読みたいと思える作品です。

発売から2日で大増刷が決定し、SNSでも話題沸騰という本作。前作の「仕掛け」に驚いた読者も、純粋なミステリの面白さを求める読者も、それぞれに楽しめる作品となっています。

『世界でいちばん透きとおった物語2』はこんな人におすすめ

  • 前作『世界でいちばん透きとおった物語』のファン
  • 本格ミステリが好きな人
  • 推理小説の謎解きを楽しみたい人
  • 作家と編集者の関係性に興味がある人
  • ビブリオ・ミステリというジャンルに興味がある人
  • 心温まる人間ドラマが好きな人
  • 杉井光作品が好きな人
  • 新潮文庫nexの作品を追っている人

まとめ:ミステリへの愛が詰まった続編

『世界でいちばん透きとおった物語2』は、前作とは異なるアプローチで読者を魅了する作品です。物理的な仕掛けではなく、純粋なミステリとしての面白さ、キャラクターの魅力、そして物語に込められたテーマ性で勝負しています。

未完の物語に隠された真実を追う過程で、小説を書くこと、編集すること、そして読むことの意味が問い直されます。ミステリという文化を愛するすべての人に向けて書かれた、温かく心に残る一冊です。

前作の衝撃を期待して読むと肩透かしを食らうかもしれませんが、ミステリの王道を行く面白さと、バディものとしての魅力を素直に楽しめば、きっと満足できる作品となるでしょう。藤阪燈真と深町霧子の活躍を、ぜひあなた自身の目で確かめてみてください。

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