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『シリアルキラーアンソロジー 人殺し日和』書評 – 淡白で純粋な殺人者たちの物語

2025年11月12日、双葉文庫から発売された短編集『シリアルキラーアンソロジー 人殺し日和』を読了した。気鋭のミステリ作家5名が描く、シリアルキラーをテーマにした短編集だ。

目次

書籍情報

  • タイトル: シリアルキラーアンソロジー 人殺し日和
  • レーベル: 双葉文庫
  • 出版社: 双葉社
  • 発売日: 2025年11月12日(電子版配信開始)
  • 底本発行日: 2025年11月15日
  • 著者: 阿津川辰海、木爾チレン、櫛木理宇、くわがきあゆ、結城真一郎

収録作品とあらすじ

「シリアルキラーvs.殺し屋」(阿津川辰海)

殺し屋への依頼内容は「古本屋に勤める男をひと月以内に殺すこと」。プロの殺し屋とシリアルキラーの対決が描かれる。阿津川辰海は『紅蓮館の殺人』『透明人間は密室に潜む』などで知られる、本格ミステリ界の若手注目株だ。

「脳JILL」(木爾チレン)

東大を目指す女子高生・樹莉。彼女はゲームセンターで景品を落とす音と、人が転落する音に魅入られていく。音への異常な執着が、やがて恐ろしい衝動へと変わっていく。

「テキストブック・キラー」(櫛木理宇)

殺人犯の眞悟は、自身の無実を信じる女性と生活を始める。しかし、その関係の裏には何かが隠されている。櫛木理宇は『死刑にいたる病』『虜囚の犬』などで、サイコサスペンスの名手として知られる作家だ。本作はシリアルキラー心理を描く手腕が存分に発揮されている。

「私の伴侶」(くわがきあゆ)

飛び降り自殺の名所がある街で暮らす漁師は、あるものを引き上げる。死と隣り合わせの街で、漁師が遭遇する不気味な出来事とは。

「ご乗車の際は」(結城真一郎)

他人の生殺与奪の権を握ることの快感を追い求める男の物語。支配欲と殺人衝動が交錯する、戦慄のサスペンス。

帯に書いてある問い – どの「殺人鬼」を好きになる?

本書の帯には「あなたは、どの殺人鬼を好きになる……?」という問いかけがある。この問いに対する私の答えは、「テキストブック・キラー」に出てくる女性だ。

詳細はネタバレになるため避けるが、この作品に登場する女性の存在が、私に最もゾクゾクする感覚を与えてくれた。櫛木理宇の筆致は、殺人者の内面を描くことにおいて群を抜いている。読者を不安にさせながらも、どこか惹きつけられる魅力がある。

シリアルキラーの淡白さと純粋さ

この一冊を通してシリアルキラーについて考えたことがある。それは、適切な表現ではないかもしれないが、彼らの殺人に対する「淡白さ」と「純粋さ」だ。

世に存在する連続殺人という事件の怖いところは、まさにそこにあると思う。サイコパスと似ているのかもしれないが、純粋に自分の心の赴くままに殺人をしている。そこに葛藤や躊躇が見られない。単純に、素直な思いというところだけを見ると、美しくさえ思えるかもしれない。もちろん、この表現が適切でないことは承知している。

一概にシリアルキラーと呼ばれる一人の人物の過去を見てみると、幼少期の家庭環境や生まれ育った環境が普通とはかけ離れすぎている。それゆえに、人間として正常な感情や機能が欠落してしまったというケースもある。

犯罪者だからその人は優しくはないとか、そういった単純な評価はできないのだと気づかされる。同情できるところもあるし、かといってこの世にはやってはいけないこともある。この複雑な感情こそが、シリアルキラーという存在の本質なのかもしれない。

予想を裏切る結末の快感

ミステリとして読むと、「この人怪しいな」と思ってから、確かにその人が犯人であることが明かされる。しかし、結末が予想のはるか斜め上をいくものだから、楽しめないわけがなかった。

読者の予想を裏切る展開は、本格ミステリの醍醐味だ。本作に収録された5編は、それぞれが独自の切り口でシリアルキラーを描いており、どの作品もその期待を裏切らない。

多彩な物語を生み出す著者たちの才能

シリアルキラーというテーマに絞っても、ここまで多彩な物語が出来上がるのは驚きだ。正直に言えば、著者の皆さんのほうが頭おかしい(褒めている)。

阿津川辰海の論理的構成力、木爾チレンの独特な感性、櫛木理宇の心理描写の深さ、くわがきあゆの不穏な雰囲気作り、結城真一郎のサスペンス構築力。それぞれの作家が持つ個性が、シリアルキラーというテーマを通して際立っている。

短編集ならではのテンポ感

短編集なのでサクサク読める。人もサクサク死んでいく。

この軽妙な表現は冗談めかしているが、事実だ。短編という形式だからこそ、濃縮されたエッセンスが詰まっている。一編読み終えるごとに、次の作品への期待が高まる。そして、その期待は毎回裏切られることなく、新しい驚きを与えてくれる。

長編小説を読む時間がない人にも、ミステリやサスペンスの世界を短時間で楽しみたい人にも、本書は最適だ。通勤時間や寝る前のちょっとした時間に、一編ずつ読み進めることができる。

おすすめポイント

  • 気鋭のミステリ作家5名による豪華アンソロジー
  • それぞれが異なる切り口でシリアルキラーを描く
  • 短編なので読みやすく、一気読みも可能
  • 予想を裏切る展開が楽しめる本格ミステリ
  • サイコサスペンスやダークミステリが好きな人には特におすすめ

まとめ

『シリアルキラーアンソロジー 人殺し日和』は、シリアルキラーというテーマの多様性と、人間心理の深淵を覗かせてくれる作品集だ。殺人という行為の背後にある「淡白さ」と「純粋さ」、そして複雑な人間性について考えさせられる。

ミステリファンはもちろん、人間の暗部に興味がある人、心理サスペンスが好きな人にぜひおすすめしたい一冊だ。ただし、残虐な描写や不穏な雰囲気が苦手な人は注意が必要かもしれない。

どの作品があなたの心をゾクゾクさせるか、ぜひ手に取って確かめてほしい。

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