今年いちばんドキドキしながら読んだ本の話をさせてください。夕木春央さんの最新作『楽園』です。
『方舟』でとんでもない衝撃を味わった僕の中で、「夕木春央先生の作品は最後の1ページまで気を抜いてはいけない」というのが今作で完全に確定しました。読み終わった直後、しばらく天井を見つめていたくらいです。
書籍情報
| 書籍名 | 楽園 |
|---|---|
| 著者 | 夕木春央 |
| 出版社 | 講談社 |
| ページ数 | 320ページ |
| 発売日 | 2026年7月23日 |
| 定価 | 1,980円(税込) |
| ISBN | 978-4-06-540315-0 |
※ページ数・価格は執筆時点の情報です。
あらすじ(ネタバレなし)
亡き両親から不動産を譲り受けた康之は、失踪した賃借人・海原の遺留品を整理するうち、群馬の山奥にある謎の物件の存在を知ります。切り立った岩壁に囲まれた、「楽園」と呼ばれる奇妙な場所。恋人の沙織とそこを訪ねた康之たちは、探索を始めてすぐに六人の”住人”に捕らえられてしまいます。
そして突きつけられる脱出の条件は、たったひとつ。「誰か一人を殺さなければならない」。
帯の「”殺人犯”にならなければ脱出できない」というキャッチコピーの時点で、もう嫌な予感しかしません。『方舟』『十戒』に続く、夕木春央流の極限クローズド・サークルです。
読み始めた時点での僕の予想(ネタバレなし)
ここからは、読みながら考えていたことをちょっと恥ずかしいですが正直に書きます。
読み始めてすぐに思ったのが、「これ、また身内が怪しいのでは?」ということでした。『方舟』のときに主人公側のグループの人物が犯人だったのが強烈に頭に残っていたので、今回も恋人の沙織さんをうっすら疑いながら読んでいたんです。
でも途中で主人公自身が沙織さんを疑い始める描写が出てきて、「主人公が疑い始めたということは、この線は違うのかな?」と一歩引いた読み方に切り替えました。いわゆるメタ的な読みですね。「読者のほとんどが彼女を怪しむはずだから、作者はそこで素直に終わらせないだろう」という警戒です。
あとは、そもそもの発端である失踪した海原さんの存在。「行方不明」とは書かれていても「死んだ」とは書かれていないので、実は誰にも知られずに建物に出入りしているのでは、と疑っていました。ミステリでは、死体が確認されていない人物は常に生きている可能性のある駒ですからね。
さらに、ある人物のポケットに見えた黒い筒状のものと、その直後にコーヒーを飲んだ人物に起きた出来事。この配置があまりにも露骨で、「これは読者に因果関係を結びつけさせるためのミスリードでは?」と感じていました。
……と、ここまで警戒しながら読んでいた僕がどうなったかは、ネタバレゾーンでお話しします。
おすすめポイント(ネタバレなし)
今のミステリは、正直トリック単体ではもう驚かせるのが難しい飽和状態に近づいていると僕は思っています。だからこそ「トリックを超えてくる仕掛け」がないと満足できない体になってしまっているんですが、『楽園』はまさにそこで勝負してくる作品でした。
犯人が誰かを当てるだけの作品ではありません。読者の「推理の前提」そのものが揺さぶられる感覚を、ぜひ味わってほしいです。
そしてもうひとつ。この作品には、人間のあらゆる感情という感情が詰まっています。恐怖、疑心、愛情、裏切り、後悔、そして読み終わったあとに残るなんとも言えない余韻。ページをめくる手が止まりませんでした。
⚠ ここから先は重大なネタバレを含みます ⚠
未読の方は絶対にここで引き返してください。本当に、本当に、この作品は何も知らずに読んだほうが幸せです。
【ネタバレあり】読み終えた僕の感想
結論から言うと、沙織さんが犯人であること自体は、なんとなくわかっていました。なので「犯人は誰か」という一点に関しては、驚きはそこまで大きくなかったんです。
でも、問題はそこからでした。
「犯人はわかった」と思った瞬間から、まさかの展開が連続します。二重にも三重にも仕掛けが張り巡らされていて、一つの真相にたどり着いたと思ったら、その足元がまた崩れる。夕木春央先生、読者が「見抜いた」と安心した瞬間を狙い撃ちしてくるのが本当に恐ろしいです。
三國さんに関しては、完全に予想外でした。あの展開は、僕の中の「登場人物の役割」の想定を根本から覆されました。読んでいる最中、思わず声が出ましたね。
そして海原さん。やっぱりまだ何かありましたね!「行方不明=死亡ではない」と警戒はしていたものの、その「何か」の中身までは全然読めていませんでした。伏線として最初から置かれていたものが、最後にきっちり意味を持ってくる構成に、ただただ唸るしかありません。
そして最後に、沙織さん。改めて言わせてください。この人、かなりやばいです。
犯人であることを予想していたはずなのに、彼女の”本当の姿”が見えてきたときの衝撃はまったく別物でした。「犯人だと知っている」ことと「その人物の本質を理解している」ことは全然違うんだと、この作品に教えられました。読み終わった今、僕はしばらく女性を信じられなくなりそうです(もちろん冗談ですが、それくらいの破壊力です)。
正直、読みながら「もう驚かないぞ」と身構えていた僕が、それでも何度も驚かされたという事実がすべてを物語っていると思います。
こんな人におすすめ
- 『方舟』『十戒』で夕木春央作品の衝撃を味わった人(絶対に読んでください)
- 「トリックにはもう驚けない」と思っているミステリ読み
- クローズド・サークルものが好きな人
- 犯人当てだけでなく、人間の感情の深いところまで揺さぶられたい人
- 一冊で強烈な読書体験がしたい人
逆に、後味の良い優しいミステリを求めている人には少し重いかもしれません。でもその重さこそが、この作品の価値だと僕は思います。
どんでん返しに飢えている人には、どんでん返しミステリ10選もあわせてどうぞ。
読書のおともに:Silent Breeze
僕は普段、自分で運営しているYouTubeチャンネル「Silent Breeze」のピアノBGMを流しながら本を読んでいます。『楽園』のような緊張感の続く作品でも、静かなピアノの音があると不思議と集中できるんです(ただしこの作品は、途中で音楽が耳に入らなくなるくらい没頭すると思います)。
おわりに
『楽園』は、夕木春央先生が「読者は作者の手癖をもう知っている」という前提に立った上で、それでもなお読者を裏切りにくる作品でした。
犯人がわかっても安心しないでください。真相が見えたと思っても油断しないでください。最後の最後まで気を抜けないのが、夕木春央作品です。
ぜひ読んでほしい。そして、人間のあらゆる感情という感情を、思う存分堪能してほしいです。それでは、また次の一冊で。






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